ShigeRokuBlog

アニメ・マンガ・映画――ポップカルチャー全般を語る日記。

「バトルもの」の源流となった小説『甲賀忍法帖』

 

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 

  山田風太郎著『甲賀忍法帖』を読んだ。アニメ、マンガ好きとしてこれは読んでおくべき作品だったなと思う。

 読もうと思ったかきっかけは、古参のオタクの方にオススメされたから。いわく「現在のバトル漫画やライトノベルにものすごく影響を与えた」らしい。wikiにも「ストーリー上にチーム対決の要素を初めて盛り込んだのは山田風太郎が初めてであり、山田風太郎という作家が漫画界に与えた影響は計り知れない」「『バトル物』と分類される漫画やアニメの始祖ともいえる存在であり、日本のエンターテイメント界にとって極めて重要な作品」とある。

 実際に読み進めてみると、予想以上に今っぽい作品で衝撃だった。50年以上前の作品であり、文体はやや固めだが、本当に現在のバトル漫画やライトノベルと変わりがない。実際本作を原作として『バジリスク』として漫画家・アニメ化もされているし。

Basilisk: The Complete Series (バジリスク 〜甲賀忍法帖〜 北米版) [Blu-ray]

Basilisk: The Complete Series (バジリスク 〜甲賀忍法帖〜 北米版) [Blu-ray]

 

  本作の物語をひとことで言ってしまうと忍者版「ロミオとジュリエット」だ。甲賀と伊賀、それぞれの次期頭領は互いを愛し合っているが、お上の命によりチームデスマッチを強いられてしまう。悲恋の物語としては“王道”だ。

 まず本作で強烈だったのは、“忍者”そのもの。日本の作品で忍者というと、『NARUTO』や『忍空』を見てもどちらかと言うと何となく“スタイリッシュ”なイメージがある。でも本作の忍者はビックリ人間的だった。関節をバキバキと自由に曲げたり、体中の穴から血を飛ばしたり、吸引だけで真空を起こしたり。「こんなのアリかよ!?」とツッコミたくなるような忍術が満載。忍術のバリエーションが豊富だから、バトルシーンも飽きずに堪能できた。

 印象に残った忍術は、主人公・甲賀弦之介の「瞳術」。攻撃してきた敵を“見る”ことによって攻撃をそっくりそのまま跳ね返す、つまりは「カウンター」である。「目を使う」「チート並みの特殊能力」ということで、『コードギアス』のルルーシュを連想してちょっとおもしろかった。強力であるがゆえ、一歩間違うと無双になってしまいそうだが、そこは工夫が凝らされていてよかった。

 だが、弦之介に立ちはだかる伊賀最凶の忍者・天膳の忍術もこれまたスゴい。天膳は「不死身」だ。たとえ心臓を突き刺して殺したとしても、驚異的な組成能力で復活するのである。
 本作のクライマックスである、弦之介と天膳との対決のオチは鳥肌ものだった。死闘の末、天膳を殺した弦之介であったがすでに満身創痍。だが、天膳は不死身。このままではまた復活してやられてしまう。
 そんなとき朧の「破幻の瞳」が開かれる。これは相手の特殊能力を「無効化する」というもの。

「朧は、なぜ泣くか。彼女は、破幻の瞳で、味方の天膳のつながろうともだえる生命の糸を断ち切ろうとしているのだ。伊賀が負けるか、甲賀が勝つか、それよりも彼女の胸にわきたっているのは、ただ甲賀弦之介を救いたいということだけであった」

 このオチはほんとに見事。てっきり天膳は四肢解体したり全身焼かれたりして殺されるのかと予想していた。不死身キャラの最期ってそういうのが多いし。だが本作では違った。なおかつ「愛する者のために見方を殺してしまう」という朧の葛藤まで描かれているのがなお良い。
 ラストはロミオとジュリエットばりに悲恋たっぷり。でもどこか美しくもあり、余韻の残る感じ。気持ち良く読み終えることができた。